61kgの幸福



 屋上で俺と佐山はだらだらとズボンを脱いでいた。
 昔は多くの人間の隠れ場になっていたここも今では俺たちだけだ。屋上でヤってる奴らがいると噂が流れ、それが事実だと確認されてから、ここには本当に誰も来なくなった。誰もが興味本位で見に来て、俺らの顔を見たとたん目を逸らす。元から俺たちはそんな扱いだったから特に気にはしていない。

 俺が半勃ちなのに佐山のトランクスはまだ膨らんでもいない。あぐらをかき、余裕な顔して煙草なんかふかしてやがる。悔しいので口吻をシャツにつっこみ、乳首を舌でねぶる。数回舐めたか舐めないかと言うところで佐山は俺の頭を掴み、シャツから引き出した。
「なんだよ」
「やめろよ。シャツ伸びんだろ」
「じゃあ脱げよ」
「めんどくせぇ」
 佐山は煙草を投げ捨てて俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。気持ちよかったのでしばらく好きにさせていたら佐山はククッと笑った。
「お前、かわいいよなぁ」
「俺がかわいいとかないだろ」
「頭撫でられて尻尾振っちゃうようなのをかわいいっつーんだよ」
 後ろを向いて確認するまでもなかった。羞恥心が顔に出る前に鼻先を佐山の腹に押しつける。鱗に覆われた硬い腹筋に舌を這わせると、そこは別の生き物のようにひくりと動いた。口の中に広がる蛇独特の生臭さにたまらなく欲情して、何度も何度も舌で擦り上げる。軽く牙を立てようとしたところで、佐山の手がまた俺の頭を捕まえた。
「さっきからどこ舐めてんだよ。んなことしてる暇があったらフェラしろ、フェラ」
 そんなことを言う佐山のペニスはまだ総排泄孔に収まったままだ。たまらず乞うような目で見上げると、何を勘違いしたのか両手で俺の頭をがっちりと掴んでぐりぐりと股間を押しつけてきた。
「早く舐めて出してくれよ。頼むぜおい」
「ん……」
 促されるまま、一見女性器のようにも見えるそこに口をつけた。まず軽く唇を押しつけ、蜜を吸う。塩辛く、生臭い。外周の襞を鼻で擦って立てたところで、口吻をつっこむ。佐山が無言のまま、手の力を強めた。
 内壁の様子を舌で探りつつ、奥へ奥へと進んでいく。こうしていると佐山の味がより一層強く感じられた。やがて鼻先が佐山のペニスに突き当たる。脈動しているそれはしまわれたままながらもしっかりと堅くなっていた。それが嬉しくて衝動的にむしゃぶりつく。奥まで飲み込むと喉にぬらりと塩辛い液体が流れ込んだ。いい加減息が苦しくなってきたので、そのまま痛くない程度にくわえて外に引きずり出す。一端ペニスを吐き出し舌で口の周りをぬぐったところで息を荒げた佐山と目があった。
「おい、お前な」
「早く出したかったんだろ?」
「危うく別のモンが出ちまうところだったぜ」
 お返しとばかりに頬をつついてくる佐山のペニスを受け止めながら、口から吐き出した粘液で雄穴をくつろげる。毎日のように佐山を受け入れているからすぐに緩くなった。
「ん……」
 指の感触を愉しみながら、赤黒い佐山のペニスを舌でつつく。外気に触れ、ビクビクと震えるそこから白く湯気が立っている。ときおり根本の肉襞に舌を差し込んでやるとオウとかなんとか呻き声が聞こえた。
 俺の口技に満足したのか、佐山がぐいと顎をしゃくった。命令通り俺が四つん這いになると、佐山が腰をがっちりと掴んで固定し、挿入の準備をする。入り口に熱い肉棒が押し当てられる感触についつい尻尾を振ってしまう。
 一気に押し込まれた。
「っぐぅ……あくっ……」
 慣れたこととはいえ、さすがにキツかった。その痛みに漏らしそうになった悲鳴を無理矢理飲み込み、耐える。
「よーしよし、やっと入ったな。じゃあ動くぞ」
「悪い、もうちょっと待ってくれないか……辛いから、頼む」
 舌打ちが聞こえたと思ったら、いきなり佐山がのしかかっってきた。その衝撃で中がかき回されて少しだけ喘いでしまう。
「重い……」
「我慢しろよ。たった六十一キロだぜ」
 それを最後に会話が途切れる。荒い息の間にふわふわと、どうでもいいことが浮かんでは消えた。
 佐山。重い。不幸な佐山。不幸な俺。二人とも日々を這い回って生きている。だから、見つめ合っても惨めにならないで済む。そういうつきあい。それだけの関係。なのに、今はただ、佐山の重みが嬉しい。
「なぁ、佐山」
「なんだ、もういいのか」
 腹の中で大きく跳ねた欲望を無視して、俺は続けた。
「俺らって、どうやったら幸せになれんのかな」
 佐山はぐっと黙り込んで体を離した。返事を返さないまま、黙って腰を小刻みに揺らしている。快感を我慢して尻尾ではたくと、佐山はやっと喋りだした。
「俺らが幸せになるとかな、無理なんだよ。こうやって傷舐め合ってんのが精一杯だ」
「それは分かってるよ。分かってんだよ」
「じゃあ聞くな」
「でも、俺は、お前がいれば、幸せ、かも……」
 言い終わる前に俺の中の佐山が力を失っていくのがありありと感じられた。締め付けて硬さを取り戻させようとしても、萎えていく雄を止めることはできない。佐山は大きく舌打ちすると、入ってきたときと同じく、一気に出ていった。
「……悪い」
「何萎えてんだよ! このインポ野郎! いくじなし! そのチンポは何のためについてんだよ!」
 悪いとは思っていたが俺はそう怒鳴らずにはいられない。せっかく考えずにいられたものを佐山に押しつけたのは俺だ。それでも、佐山の本当にすまなさそうな顔を見ると言わずにはいられなかった。
 佐山は苦々しい顔をして俺のチンポに手を伸ばす。欲望に忠実なそこはまだガチガチに勃起していた。そこを優しく握られて腰が砕けそうになったところで、尻に何かが進入してきた。それはペニスと同じ質量を持ちながら、ひやりと冷たい。佐山の尻尾だった。それがぐねぐねと暴れ回って中を滅茶苦茶にするから、俺は突っ伏してしまう。そこに慣れた手つきで佐山が愛撫を加えてくるから、俺はイかないようにするので必死だった。
「佐山、佐山ッ……」
「イケよ」
「違う、俺、こんなんじゃっ……」
「いいから黙ってイケよっ!」
「や、やめ、くぅぅぅっ……んんっ……!」
 鱗でゴリゴリと急所を擦られて、チンポを激しくしごかれて、俺は遂に達してしまった。堅いコンクリに満たされない精液がびゅるびゅると飛び散って跳ねる。ひどく辛い開放感を味わいながら俺はその匂いを嗅いでいた。

 ぐったりと地面に崩れ落ちた俺を放り捨て、佐山は止める間もなく屋上の落下防止用フェンスに突進した。六十一キロの体当たりを受けて金属の網は大きくひしゃげるが、絶対に破れようとはしない。それでも、佐山は何度も何度もそこに体当たりを続ける。まるで飛び降りたいかのように。
「さやまぁ……」
「俺らって、かわいそうだよなぁ」
 振り返ったその顔はどうしようもなく歪んでいて、俺はちょっと笑ってしまった。




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